現地観戦者投稿 ~2021年度 全日本U12サッカー選手権大会を視察して~
本文は、現地視察をしたスタッフから投稿をいただきました。
▼以下、投稿文▼
全日本U-12サッカー選手権大会を12/26~12/29の4日間にわたり視察しました。(27日~)。
今大会の視察に行き感じたことを簡単に述べていきたいと思います。
今回視察した試合、映像で確認した試合として
◆視察した試合 ◆
①シーガル広島VSサガン鳥栖 (予選リーグ)
②ソレッソ熊本VSYF奈良テソロ(予選リーグ)
③ ツエーゲン金沢VSオオタFC(予選リーグ)
④横河武蔵野VSソレッソ熊本(ラウンド16)
⑤シーガル広島VS鹿島アントラーズ(準々決勝)
⑥横河武蔵野VSファナティコス(準々決勝)
⑦アリーバ宮崎VSレジスタFC(準々決勝)
⑧菟道SSSVS鹿島アントラーズ(準決勝)
⑨横河武蔵野VSレジスタFC(準決勝)
⑩鹿島アントラーズVSレジスタFC(決勝)
◆映像観戦した試合◆
①シーガル広島VS大山田SSS(予選リーグ)
②ジェフユナイテッド千葉VSソレッソ熊本(予選リーグ)
③ シーガル広島VS鳥取KFC(ラウンド16)
④ ジェフユナイテッド千葉VS菟道SSS(準々決勝)
❶コーチングの質(コーチングの中身)
上記の試合を大会期間中に視察し、コーチングの質や中身がチームによって異なり、中でもシーガル広島とジェフユナイテッド千葉のコーチングスタッフのコーチングはとても素晴らしかった。
ポジティブな声掛けと安心させる声掛けがとても多く選手は自信と勇気を持ってプレーしていた。特にボールの無いところでのいいプレーに関して「○○今の切り替えよかったぞー」「よく気付いた○○」といったポジティブなコーチングをすることで選手はその後もそういったプレーを積極的に行い、何を意識してプレーするかを考えながら判断していた。
また、試合の中で少し選手達が混乱していたり難しい局面になっていた時に「大丈夫だよ。いいプレーできてるぞ!」と声をかけ、選手を落ち着かせたり安心させ、その後のいいプレーに結び付けさせてた。
当然、これまでの積み重ねによるものは大きいと思うが、それを全国大会といった大舞台で発揮させる様なコーチングはとても素晴らしく、私自身も現場やアルバイトで指導する後輩への接し方として見習うべき点だった。
また、選手に向けて試合に臨むマインドを作らせるコーチングをする指導者に目がいった。
ラウンド16で視察した横河武蔵野VSソレッソ熊本(ラウンド16)の試合で、ソレッソ熊本スタッフは、相手のよいFWの選手に対応しているDFの選手がやられてチームとして少し戸惑っている時「○○が着いてやられるんなら、しょうがないよ!その分攻めて攻めて点取ってくればいいからな!」と言葉をかけていた。
その声掛けによって選手達は攻めつづける意識を高く持ってプレーしていたし、攻めるために必要なボールを奪うというプレーの意識を高く持っていた。
この様に試合中でのコーチングについて
1.「ポジティブなフィードバックを行うこと」
2.「選手を安心させる声掛けを行うこと」
3.「混乱しそうなタイミングの時に試合の中でのマインドを定めさせてそれを達成できるようにしていくこと」。
この3つはとても重要であるなと感じましたし、これから活かしていこうと思う。
❷最終局面での守備強度とそれを崩す為のグループの関わり
今回の観戦で痛感したのは「守備の強度の高さ」。特にゴール前、つまり「ゴールを奪う」「ゴールを守る」という局面の「ゴールを守る」局面での強度とインテリジェンスの高さが勝ち残るチームであればあるほど高かった印象を感じた。
「ゴールを守る」為に、相手のシュートを打たせない為に「寄せる」「ドリブルに付いて行く」「間に合わない時はスライディングしてでも身体や足に当てる」といったプレーの強度がとても高いと感じた。
これは「この大会だけ」出来ることでは無く、普段のTRやゲームで求められていないとできないプレーだ思った。また、インテリジェンスの高さという点について、今回視察した試合の中で、相手FWの個人能力(身体的な大きさ、強さ、速さ、個人の巧さ)に対して身体が小さいなDFの選手でも対応の仕方を工夫することでシュートまで持って行かせないということが分かった。
特にカウンターになる局面で、マッチアップしている選手に対して遅らせることで素早く味方を戻させて 1VS1の状況から2VS1の状況に持っていくことで能力の高い相手を抑える個人戦術の高さが勝ち残るチームでが多かったと思う。
特にシーガルの両SBはサガンやKFC、アントラーズと言った前線の能力が高い選手に対してこの様な対応をすることで突破されることが殆どなかったなという印象でした。
実際に広島で試合をしててこういったプレーを観る機会は少なく、今回予選リーグで敗退したチームの多くはそれが出来ていなかった印象。 また、その中で、ソレッソ熊本、オオタFC、ジェフユナイテッド千葉、ファナティコスというチームは「ゴールを奪う」といった局面で上述したような「ゴールを守る」為のプレー強度が高いチームからゴールを奪う為に、個人やグループでの崩しの精度がとても高く感じた。
特にソレッソとオオタの選手のアタッキングサード以降での2人組の崩し(パラレラ、ダイアナルからのバックドア、ワンツー)、ドリで引きつけてのリリース(中央に寄せて横パスや、スルーパス)3人目、4人目が関わった崩しはとても参考となった。
今回強く感じたのはやはり、攻撃と守備は表裏の関係でつながっているため、「ゴールを奪う」「ゴールを守る」という局面でのTRを日常から基準を高くして行っていくことがとても大切だと感じた。そのプロセスの積み重ねがこの様なレベルの高い大会でも発揮ができ、選手としても成長できる。
❸相手を剥がせることの重要性
今大会もまた、相手を剥がせる能力が重要であると感じさせられた。今大会、ラウンド8以上に残ったチーム、惜しくもPKで敗れたソレッソ熊本の選手の多くはピッチのエリアに関係なく相手を剥がせる能力が高かった。特に試聴した予選ラウンドのソレッソVSジェフは低い位置で保持してる時に相手が強度の高いプレスをしてきたとしても、慌てずに持ち方(オープン)等で相手にボールを出すと見せかけ逆を取って剥がして前進していく。
当然、オフの選手はパスラインを常に引いているからこそ出来る駆け引きと判断だが、それを実行できる質の高さは日常の積み重ねの成果でもある。もちろん、相手を剥がせることで数的優位を個人で作り出すことも出来るのは大きく、それによって相手を引きつけて(釣り出して)他の選手をフリーにすることができる。
また、もう1つはメンタル的な話になるが、相手を剥がせないチームはどうしても高い位置からプレスをかけられたときに長いボールを前線に送り、そこで失うというのが多かったという印象がある。逆をいうと低い位置からでも剥がせるからより優位性を持ってボールを丁寧に前進させていくことができるのではないかと感じた。
※仕掛け方とシールディングターン(隠して回る) 今回、多く観たのがサイドで仕掛ける際にカニドリ(インサイドで触りながら軸足先行でゆっくり仕掛けていくドリ)を多用してる選手が多かったなという印象。これによって抜く瞬間に緩急をつけやすいのと、相手に少し縦という矢印を見せながら仕掛けるので相手が縦に少しずれた瞬間にアウトを使ったカットインで抜きやすくなっていた。
また、そのカットインを見せた後は縦に抜くためのフェイントやダブルタッチ等も有効に使えるので相手は常に「どっちだ?」を突きつけられている感覚だった。
この仕掛け方は身体的な能力の低い選手が能力の高い選手を相手に駆け引きで上回ることが出来ていたので落とし込んでいきたい。
シールディングターン(隠して回る)に関しては、前々回現地で視察した時、前回映像で視聴した時もそうだったが、これが出来ることで「やり直し」をする意識を持てるなと感じた。これが出来ないとどうしてもプレッシャーが厳しく来た時に前への選択肢しか出てき辛くなり、難しいボールを蹴って相手に渡したりというのが多くなるが、これが出来ることで、「やり直す」ことができ、確実にビルドアップして前進していくことができる。
また、アントラーズの10番はチームが縦に速い攻撃を志向している中で、コンドゥクシオンをしながら、相手が寄せてきた時に一度これを見せることで、自分達のペースを一度落としてスローダウンさせていたり(スペインで言うパウサ)、一度回ることで守備側の予測(スルーパスや前線へのボールを出すという)を一度外すことでオフの選手に動き直しの時間を与えることと、それによってマークや意識が外れた瞬間にボールを出すことで決定的なチャンスを創出しており、その様な使い方もあるなと参考になった。
❹今大会の全体的な印象
今回視察して感じたのは、前々回、前回と比較して、低い位置からビルドアップして前進していこうとするチーム(個人的に視察した試合の中では、ジェフ、ソレッソ、YFテソロ、ヴィッセルがこの路線)がそんなに多くなかったなという印象。勿論、観てないチームの試合の方が多いので(サガンの初戦やフロンターレなどは後ろから組織的にビルドアップしていたらしいが)、全部を観たらまた変わるのだろうが、今回はそういったチームよりもシンプルに前線へボールを供給していくチームが勝ち残っていった印象がある。
そういったチームの特徴として、やはり、前線の選手の個の質がかなり高かった選手が多かったと思う。特に「大きい、速い、強い、上手い」選手が前線にいることが多かったなと思う。こういった選手がいることと、そこへ後ろから質の高いボールが供給されることでシンプルに前線へ供給してチャンスを作るチームが勝ち上がっていった。
逆にそういったチームと互角に戦えるチームはやはり、まずDFラインの選手の能力(対人の強さ、身体の強さ、デカさ、速さ)が高いことと、カバーリングのポジショニングが適切であったと思う。また、上述した様な「カウンターになる局面で、マッチアップしている選手に対して遅らせることで素早く味方を戻させて 1VS1の状況から2VS1の状況に持っていくことで能力の高い相手を抑える個人戦術の高さ」対応や、縦に行かせて中へ行かせない対応が出来るチームが前線の能力が高い選手に対して互角に戦えていたなと思う。
最後にチームに落とし込んで行きたいこと
今回の大会を観て、やはりまず「ゴールを奪う」「ゴールを守る」の攻防の質と強度を高めていきたいと思う。ドリブルについて行って剥がされない、最後の最後でシュートやクロスを打たせない、スライディングしてでも当てるという部分、カウンターの対応らゴール前での判断の質、グループでの崩しの部分を少しずつ積み重ねていきたいと思う。
また、カニドリとシールディングターンをより使える様にしていきたい。勿論、使い方、使うエリアも含めて。
そして、後ろからの丁寧なビルドアップの質の向上。自チームには残念ながら前線に身体的に能力の高い選手はいないし、個人的に低い位置からどのように前進していくかを考えて積み重ねていくほうがその先へ繋がっていくと考える。なので今回そういった点で質の高かったジェフ、ヴィッセル、ソレッソといったチームの試合を観て参考にしていきたい。